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記載不備の行方

更新日:2010年7月20日

記載不備について興味深い判決が出ていますので、ご紹介いたします。特許庁の記載不備に関する条文の解釈、適用の仕方について否定をするような判断が見受けられ、例えば、サポート要件(特許法第36条6項1号)、実施可能要件(同条4項1号)などの記載不備に関する条文を明確に使い分けることが判示されています。 ▼もっと見る 平成21年(行ケ)第10033号は、特許法36条4項1号の実施可能要件と同法36条6項1号のサポート要件の拒絶理由の適用について、以下のように判示しています。

「特許請求の範囲の記載」が法36条6項1号に適合するか否か,すなわち「特許請求の範囲の記載」が「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」か否かを判断するに当たっては,その前提として「発明の詳細な説明」がどのような技術的事項を開示しているかを把握することが必要となる。そして,法36条6項1号の規定は,「特許請求の範囲」の記載に関してその要件を定めた規定であること,及び,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除するために設けられた規定であることに照らすならば,同号の要件の適合性を判断する前提としての「発明の詳細な説明」の開示内容の理解の在り方は,上記の点を判断するのに必要かつ合理的な方法によるべきである。他方,「発明の詳細な説明」の記載に関しては,法36条4項1号が,独立して「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の・・・技術上の意義を理解するために必要な事項」及び「(発明の)実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載した」との要件を定めているので,同項所定の要件への適合性を欠く場合は,そのこと自体で,その出願は拒絶理由を有し,又は,独立の無効理由(特許法123条1項4号)となる筋合いである。そうであるところ,法36条6項1号の規定の解釈に当たり,「発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除する」という同号の趣旨から離れて,法36条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈,判断することは,同一事項を二重に判断することになりかねない。仮に,発明の詳細な説明の記載が法36条4項1号所定の要件を欠く場合に,常に同条6項1号の要件を欠くという関係に立つような解釈を許容するとしたならば,同条4項1号の規定を,同条6項1号のほかに別個独立の特許要件として設けた存在意義が失われることになる。
 したがって,法36条6項1号の規定の解釈に当たっては,特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明の記載の範囲と対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えているか否かを必要かつ合目的的な解釈手法によって判断すれば足り,例えば,特許請求の範囲が特異な形式で記載されているため,法36条6項1号の判断の前提として,「発明の詳細な説明」を上記のような手法により解釈しない限り,特許制度の趣旨に著しく反するなど特段の事情のある場合はさておき,そのような事情がない限りは,同条4項1号の要件適合性を判断するのと全く同様の手法によって解釈,判断することは許されないというべきである。

 平成21年(行ケ)第10281号では、特許法36条6項2号の明確性要件について、以下のように判示しています。

 『特許を受けようとする発明が明確であること』とは、特許請求の範囲における構成の記載からその構成を一義的に知ることができれば、特定の問題としては必要にして十分であるとしています。

 また、特許法36条4項の実施可能要件について、「本件発明1又は2は、本件発明3以外の方法で製造された物を包含するものであって、この製造方法以外の方法については、上述した実現を可能とする手段の示唆すらなく、本件発明1または2については、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に、即ち、本件課題が解決できるように、明確かつ十分に記載されているとはいうことはできない」という特許庁の判断に対して、本件発明3の方法で製造することが可能である以上、実施可能要件がないとすることはできないとしています。

 平成20年(行ケ)第10235号では、「約35.7~約50重量%のペンタフルオロエタンと約64.3~約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり、32ºFにて約119.0psiaの蒸気圧を有する、空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物。」という請求項の記載において、「32ºFにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」という部分が、発明を限定する事項であるかどうかが問題となりました。裁判所は、「32ºFにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」という記載については、特許請求の範囲そのものを限定する事項ではなく、発明の詳細な説明を参酌して、単に「真の共沸混合物」が有する属性としての蒸気圧を記載したにとどまるとしました。また、請求項に記載された発明の解釈について、発明の詳細な説明の参酌を制限するリパーゼ判決(最高際平成3年3月8日判決)との関係について、以下のように判示しました。

本件発明の請求項1の文言は、前段では、組成物の物質の名称が特定の数値(重量パーセント)とともに記載され、後段では、特定の温度における特定の数値の蒸気圧が記載されており、それぞれの用語自体としては疑義を生じる余地のない明瞭なものであるが、組成物の発明であるから、構成としては前段の記載で必要かつ十分であるのに対し、後者は、さらにこれを限定しているようにも見えるものの、真実、要件ないし権利の範囲としてさらに付された限定であるとすれば、その帰結するところ、権利範囲が極めて限定され、特許として有用性がほとんどない組成物となり、極限的な、いわば点でしか成立しない構成の発明であるという不可思議な理解に、当業者であれば容易に想到することが必定である。そうすると、本件発明の請求項1の記載に接した当業者は、前段と後段との関係、特に後段の意味内容を理解するために、明細書の関係部分の記載直ちに参照しようとするはずである。そうであってみれば、本件発明の請求項1の記載に接した当業者は、後段の「32ºFにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」の記載に接し、その技術的な意義を一義的に明確に理解することができないため、明細書の記載を参照する必要に迫られ、これを参酌した結果、その意味内容を上記判事のように理解するに至るものということができる。したがって、本件発明の請求項1の解釈に当たって明細書の記載を参酌することは許され、上記の判断には、所論のような、判例の趣旨に反するところはなく、被告のこの点に関する主張は採用することができない。

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進歩性判断の行方

更新日:2010年1月1日

ここ数年の審決取消訴訟では、特許庁がした進歩性の判断は、ほとんど翻らないような傾向がありましたが、平成21年以降の審決取消訴訟では、特許庁がした審決が取り消される事例が増加しているようです。平成20年(行ケ)第10096号(平成21年1月28日判決、知財高裁第3部)では、進歩性の判断手法について、以下のように判示されています。 ▼もっと見る特許法第29条第2項が定める要件の充足性、すなわち、当業者が、先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは、先行技術から出発して、出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。ところで、出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は、当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから、容易想到性の有無を客観的に判断するためには、当該発明の特徴点を的確に把握することが必要不可欠である。そして、容易想到性の判断の過程においては、事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが、そのためには、当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって、その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないように留意することが必要となる。さらに、当該発明が容易想到であると判断するためには、先行技術の内容の検討に当たっても、当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく、当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。

 本判決では、特許庁が行った引用発明や設計事項等の適用について、発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等を要求し、斯かる示唆等がない場合には、進歩性を否定できないことを示しています。
 平成12年の審査基準の改訂では、「平成6年運用指針における『論理づけ』に関する記載中には、引用発明中に積極的な動機づけ(同一の課題が記載されている、引用発明の内容中の示唆等)がなければ進歩性を否定できない等の誤解を生じやすい表現振りがあったので、当業者の立場から、より的確に進歩性の判断が行えるよう修正した」との説明があり、平成12年以降の審査では、引用発明や設計事項などの適用が比較的広範囲になされて、進歩性が否定される傾向が強くなった印象があります。
 しかし、今後は、上記判決で判示されたように、引用発明や設計事項等の適用が制限され、進歩性が認められるケースが増えるかもしれません。

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